多摩川のある街だからできる子育て
東京の都心部と隣接する高津区。便利な街でありながら、「自然が少ない」と感じる人も少なくありません。しかし、少し視点を変えてみると、多摩川があり、公園があり、街路樹があり、小さな畑もある。実はこの街には、子どもたちが育つための豊かな自然が残されています。
「田舎へ行かなくても、子どもたちは自然の中で育てられるんです。」
そう話してくれたのは、高津区で活動する「まちなかネイチャーキッズ」代表の小久保孝志さん。活動の舞台は高津の街そのもの。多摩川、公園、畑、そして地域で暮らす人々。身近な場所だからこそ生まれる学びがあります。

まちなかネイチャーキッズが生まれたきっかけは、TKCさん自身の子育て経験でした。
小学生のお子さんが利用していた学童保育。限られた空間の中で多くの子どもたちが過ごす様子を見ながら、ふと感じたことがあったそうです。「自分なら子どもたちを川へ連れて行けるな」
TKCさんはこれまで、リバーガイドや自然体験活動、ガーデンティーチャーなど、自然と子どもをつなぐ仕事に携わってきました。
高津には多摩川がある。遠くの自然を求めなくても、この街の中に子どもたちが思い切り遊び、育つ環境があるのではないか。
そんな思いから、まちなかネイチャーキッズはスタートしました。
自然遊びで五感をはぐくむ
TKCさんが自然遊びを大切にする理由は、単に楽しいからではありません。
自然の中には、子どもの成長に欠かせない刺激がたくさんあるとおっしゃっています。例えば川遊び。冷たい水に足を入れた瞬間の驚き。流れに足を取られそうになる緊張感。無事に岸へ戻った時の安心感。
こうした体験は、実は自律神経の働きとも深く関わっています。
危険を察知した時には交感神経が働き、体は緊張状態になります。そして安全な場所に戻ると副交感神経が働き、心と体がリラックスする。
自然の中では、この切り替えが遊びの中で自然に繰り返されます。
「木登りも同じなんです。落ちるかもしれないというドキドキがあって、降りた時にホッとする。その積み重ねが心と体を育てていくんです」さらに、自然遊びは五感をフルに使います。
風の匂い。
鳥の声。
土の感触。
水の冷たさ。
そうした感覚の積み重ねが、直感や気配を感じ取る力、予測する力を育てていくといいます。ネイチャーキッズで大切にしているのは、「直感・気配・予感・予測」という、人間が本来持っている感覚です。「子どもたちには思い切り走って、思い切り叫んでほしいんです」
都市部ではどうしても「静かにしなさい」と言われる場面が増えます。しかし自然の中には、思い切り身体を動かし、感情を発散できる余白があります。
それが結果的に、心の安定や健やかな成長につながるとTKCさんは考えています。

ネイチャーキッズでは、公園へ行っても遊具ではあまり遊びません。
「遊具はいつでも遊べるんです」
子どもたちが向かうのは、草むらや木々のある場所。石を積み上げたり、虫を探したり、木に登ったり。冬にはヘッドランプをつけて暗闇探検をすることもあります。大人から見ると何もない場所でも、子どもたちは遊びを見つけます。むしろ遊具がないからこそ、自分で考え、工夫し、想像力を働かせながら遊びを生み出していく。
自然は最高の遊び場なのです。
暦に沿った暮らしの体験作り

ネイチャーキッズでは自然遊びだけでなく、季節の手仕事も大切にしています。
梅の収穫。味噌づくり。藍染め。ろうそくづくり。
子どもたちは季節ごとの営みを実際に体験します。
「この時期だから梅を採る。この時期だから味噌を仕込む。そういう感覚を知ってほしいんです」
現代では、スーパーへ行けば一年中なんでも手に入ります。
だからこそ、その食べ物がどこから来て、誰が育て、どのように作られているのかを知る機会は少なくなっています。実際に梅の木から収穫し、自分で梅ジュースを仕込む。大豆から味噌を仕込む。そんな体験を通じて、自然と暮らし、文化がつながっていることを体感していきます。
高津の人、文化とのつながり
日本の昔ながらの生活の知恵、文化、地域に暮らす人々との繋がりも大切にしています。
農家さんと一緒に大豆を植える。梅農家さんの畑で収穫をする。
手芸作家とバッジを作る。編集者から本の作り方を教わる。藍染めを学ぶ。
首都圏の地域では、身近にその道のプロフェッショナルがいる。その身近なプロフェッショナルな方々を講師として、子供たちに披露してもらう。「こんなにすごい人たちが近くにいるのに、子どもたちが知らないのはもったいないですよね。」
子どもたちが街でその人たちに会ったとき、「こんにちは」と声をかけられる関係が生まれる。
更には、先生として関わってもらった人たちも、ネイチャーキッズたちも世代を超えた知り合いが増え「私たちの子ども」として子育てを地域ぐるみでできるような関係性を築けていくことが理想的だと言います。
高津だからできる子育て
「昔は当たり前だった、暦に沿った手仕事の暮らしを実践していた人たちがどんどん少なくなっています。そうした方々は高齢になられ、実際に手を動かしながら伝えられる人も減ってきています。だからこそ、昔ながらの手仕事や暮らしの知恵の価値を、もう一度見直していきたいと思うんです。」とTKCさんは現代社会の危機感を抱いています。
また、住宅やマンションが増え続ける都市部では、子どもたちが土や自然に触れる機会そのものが少なくなっていると感じているそうです。
土や自然に触れることは子どもの発達にとって非常に大切、土壌には多様な菌が存在し、そうした自然環境に触れることが、免疫機能やメンタル面にも良い影響を与えるのではないかと考えています。
さらに自然遊びの中で経験する「少し危ないかもしれない」という感覚や、自分で状況を判断する体験は、危機管理能力だけでなく、自律神経のバランスを整えることにもつながるそうです。
ネイチャーキッズで大切にしているのは、
「直観」「気配」「予感」「予測」
といった、人が本来持っている感覚を育むこと。
自然の中では、子どもたちは全身を使って遊びます。走り回り、大声で笑い、ときには叫びながら思いきり身体を動かします。
「子どものうちにしっかり発散できる環境はとても大切だと思っています。そうした経験が、感情をコントロールする力や、健やかな心の成長につながるのではないでしょうか。」
子どもたちが自然と触れ合い、五感を使い、思いきり遊ぶこと。その積み重ねが、心身ともに健やかな成長につながっていく――。
まちなかネイチャーキッズには、そんな願いが込められています。
■まちなかネイチャーキッズ
週1回(毎週水曜日)を基本に活動中。※詳細はInstagramもしくはWebSiteから。
多摩川や公園、地域の畑などをフィールドに、自然遊びや季節の手仕事、地域の大人との交流を行っています。
現在、体験参加・メンバーも募集中とのことです。
▶まちなかネイチャーキッズ Instagram
▶まちなかネイチャーキッズ Website
■代表プロフィール
小久保 孝志 Kokubo Takashi (TKC)
Rewild Japan 代表
NPO法人ごかんたいそう理事/ガーデンティーチャー
2006年に東京農業大学森林総合化学科卒業後、陸上自衛隊幹部候補生、保育業、リバーガイド、植物装飾業など、自然と文化、子どもに関わる様々な仕事に従事。
2020年より神奈川県藤野にあるパーマカルチャーセンタージャパンの設楽清和氏より1年間、パーマカルチャーを学びパーマカルチャーデザイナーの資格取得。また翌年実践コースやアドバンスドコースを受講。
2021年、NPO法人ごかんたいそうにて、ガーデンティーチャーとして里山文化や農、自然のことを子どもたちに伝え始める。同年、五感教育研究所の髙橋良寿氏に師事。自然の根源的な在り方と子どもの発達発育の関係の重要性や遊びについて学び、その理論の実践を開始。
2023年、Greening TAKATSU立ち上げメンバーに加わり、2025年よりRewild Japanを立ち上げurban nature事業の一つとして「まちなかネイチャーキッズ」をスタート。同年、大人向け事業「urban nature club そらとかぜと」を企画。現在運営に向け動き出している。