2025年11月22日、川崎市高津区・大山街道沿いにある創作スペース「ツクリバ」で、初の「ZINE祭り」が開催された。
主催はツクリバ編集室。
ZINE(ジン)とは、個人が自由に制作する小冊子のこと。国内でも再び注目が集まりつつあるが、高津区でこれほど多様なZINEが一堂に会するのは珍しい。

「ツクリバ編集室」は、川崎市高津区を拠点に、ZINE(自費制作の小冊子)を通じて“地域の表現文化”を育てる活動を行う市民グループだ。
SNSではなく紙のZINEで想いを伝えるという選択肢を提案し、ワークショップ、編集会議、ZINE設置の仕組みづくりなどを通じて、作る人・読む人・街をゆるやかにつなぐ活動を行っている。
今回、高津コネクト編集部は当日の様子を取材した。
ZINEマーケット — 作り手と読み手が直に出会う場所
マーケットエリアには、写真集、コミック、エッセイ、個人新聞など、多種多様なZINEが並んだ。
来場者は作品を手に取りながら、作者と直接言葉を交わしており、作品の背景や制作過程にまつわる会話が自然に生まれていた。
会場前の大山街道という立地も後押しし、通りすがりの住民が「ちょっと覗いてみよう」と立ち寄る姿も多い。
ZINEを初めて見るという来場者も多く、地域における新しい文化体験の入り口として機能していた。
ごえんZINEワークショップ — 誰でも“つくる側”になれる体験
満席となった「ごえんZINEワークショップ」には、子どもから大人まで幅広い年齢層が参加。
A4一枚から作れるミニZINEを、思い思いに作成していく。

参加者同士が進行状況を見せ合ったり、レイアウトやアイデアを共有したりと、自然な交流が生まれていたことが印象的。
完成したZINEのどれもが全く違う表情を持ち、短時間のワークショップながら「自分を表現する楽しさ」に気づくきっかけとなっていた。

トークショー — 作り手の声から見えるZINEの魅力
会場では、マーケット出店作家や、まちの漫画雑誌「ダダダコミック」投稿作家によるトークショーも実施された。
作品が生まれる背景や、ZINEという形式を選ぶ理由などが語られ、来場者は熱心に耳を傾けていた。

公開編集会議 — ZINEの“生まれる瞬間”を共有
公開編集会議は、ZINEの企画案を持つメンバーがアイデアを共有し、それに対して参加者全員で意見を出し合う試みで、本イベント前も、「どうやってZINEをつくればいいのかわからない」「相談しながらつくってみたい」という人の声に応える形で、これまでも何度か開催されてきた取り組み。この編集会議を経てできあがったZINEを今回のイベントで出店している参加者もいた。
この日は参加者の一人が自身が書きたい小説に生かせそうなエピソードを募集したり、別の参加者は自身の住む地域の魅力を伝えるZINEについてのアイディアを募ったりした。
普段は見えにくいZINE制作の裏側を、来場者が間近で体感できる貴重な場となっていた。
まちの漫画雑誌ダダダ!コミック創刊号発売
今回のZINE祭りでは、もうひとつ新しい挑戦があった。
それがまちの漫画雑誌 「ダダダ!コミック」 の創刊だ。
ダダダ!コミックは、打ち合わせなしで、投稿された漫画をそのまま掲載するという、
ふだんの商業誌では見られない“生のままの創作”を扱う点が特徴だ。

創刊号は約50ページ。
プロ並みの作品から、はじめて漫画を描いたという参加者の作品まで、さまざまな作品が掲載されている。
ZINE文化と同じく、個人が自由に表現する姿勢をそのまま形にした“まちの創作物”。
高津という地域から漫画文化が芽生えていく可能性を感じさせる取り組みだった。
小さな文化・小さなつながりが芽生える場
ZINEは、完成度を競うものではなく、誰もが自分の言葉で世界を表現できるひとつの選択肢だ。
今回のイベントでは、ZINEを通じて自然と会話や交流が生まれ、地域内に新しいつながりが芽生えている様子が見られた。
大規模な催しではなく、ローカルスペースならではの距離感が、この日の文化体験をより濃くしていたように思う。
ツクリバ編集室では今後もZINEマーケットやワークショップを継続的に開催する予定だ。
高津が“ZINEの似合う街”として育っていく過程を、これからも追いかけたい。